055: リゾートホテルに行く
ホ
テルの入り口に立て掛けられた看板は白い鉄板に赤いペンキで描かれている。職人の手描きだった。
「天然温泉」という漢字四文字が見事なバランスをとっている。
これはすごい芸術家が手掛けた作品なのではないか。
きみは記憶を探ってみるが、芸術家の名前を誰ひとり思い出せなかった。
看板の横に立ち、ガラス張りのホテルを見上げると透明のチューブの中を透明のエレベーターが素早く上っていくのが見えた。
きみは何階建てなのか数えかけてやめてしまう。
ホテルのロビーは驚くほど広く、そして古かった。閑散としている。
五十年前くらいに建てられたのだろうか。重厚な内装からは歴史の趣きを感じられる。
正面にはなだらかにカーブを描いた大階段が二階へと続いている。
広くてなだらかな階段は封鎖されていて上れそうにない。
受付にすら誰も立っていない。営業しているのか疑わしくなる。
きみは、